複利というと、配当や利息を受け取って、それをもう一度投資するイメージがあります。では、配当を出さない個別株には複利がないのでしょうか。
配当がなくても、資産が複利的に成長することはあります。企業が利益を次の事業に投じ、その成果を株主が値上がりとして受け取る道があるからです。ただし、無配だから増えるわけでも、再投資すれば成功するわけでもありません。
この気づきは、仕事で自動化を進めてきた経験とも重なります。
アクセス権の手動変更を、自動化した先にあったこと
IT部門でユーザー管理をしていた頃、異動があるたびにアクセス権を手動で変更していました。そこで、人事システムと連携させて、その作業を自動化しました。
空いた時間で、次の企画を考えるようになりました。
その後は業務のアウトソーシングも進め、チームのみんなが企画に使える時間を作っていきました。
システム構築の自動化にも取り組み、また次の企画へ。そうしたことを繰り返していました。
工数を減らすと、次のことに取り組む余地ができる。その余地を使って、さらに仕事の進め方を変えていく。私が複利に感じる面白さも、この繰り返しにあります。
これは金融上の複利そのものではなく、仕事の改善を複利になぞらえた私の捉え方です。企業にも、稼いだ利益を次の事業に使い、さらに稼ぐ力を増やす道があります。配当として手元に来ない利益にも、そういう使い道があるのです。
株式で利益が積み重なる仕組み
複利の基本は、得られた利益を運用に残し、その分も含めて次の利益につなげることです。配当を再投資して株数を増やすのは、その一つの方法です。
ただ、株式で得られるリターンには、配当だけでなく株価の値上がり・値下がりも含まれます。配当がないという理由だけで、利益を積み重ねる可能性までなくなるわけではありません。[1]
ここで、二つの話を分けておくと分かりやすくなります。
- 企業側の話:稼いだ利益を事業に再投資し、次の利益を増やせるか。
- 投資家側の話:保有資産の価値や受け取った配当を含め、資産全体がどう増減したか。
企業が成長しても、その成長が同じ割合で株価に反映されるとは限りません。株式の「複利」は、決まった利率で利息が付く預金とは違い、将来の収益が確約された仕組みではないのです。
企業の利益が、次の利益を生む
企業は、稼いだ利益を配当として株主に渡すことも、会社に残して使うこともできます。残した資金の使い道には、設備の増強、新しい事業への投資、借入金の返済などがあります。
そのうち事業への再投資がうまくいけば、次に稼ぐ力が増えます。増えた利益をさらに有効に使えれば、成長が積み重なっていく。これが、企業内部で複利的な成長が生まれるという考え方です。
ただし、利益を残したことと、有効に再投資したことは別です。さらに、お金を使ったことと、その投資で利益を増やせたことも別です。
バークシャー・ハサウェイの1980年の株主書簡でも、企業が残した利益の価値は、その使い道と、その後に生まれる利益によって決まると説明されています。株価への反映も一定ではなく、買うときの価格によっては事業成長の恩恵が打ち消される点にも触れています。[2]
つまり、見るべきなのは「配当を出していないか」だけではありません。残した利益が、株主にとって価値のある使われ方をしているかです。
売却しなくても、資産の増減は積み重なる
投資家側からは、数字で考えると整理しやすくなります。
配当のない株式を100万円分保有し、評価額が1年目に5%、2年目にも5%上がったと仮定します。追加投資も売却もせず、税金や手数料は考慮しません。
- 購入時:100万円
- 1年後:100万円 × 1.05 = 105万円
- 2年後:105万円 × 1.05 = 110万2,500円
2年目は、最初の100万円に対してだけでなく、値上がり後の105万円に対して5%上がっています。途中で一度売り、買い直さなくても、この計算は成り立ちます。売却して現金にすることと、保有資産の価値が増えることは分けて考えられます。
もちろん、これは仕組みを示すための仮定です。企業の利益が5%増えれば株価も5%上がる、という意味ではありません。将来の利回りを予測するものでもありません。
逆方向の変化も積み重なります。100万円が20%下がると80万円。そこから20%上がっても96万円で、元には戻りません。長く持てば自動的に増えるという話ではなく、損失や値動きも含めて考える必要があります。
配当株でも、企業の再投資は続く
配当株でも、利益の一部を配当に回し、残りを事業に再投資することはできます。そのうえで投資家が配当を再投資すれば、企業側と投資家側の両方で再投資が行われます。
一方、無配株で企業の投資がうまくいかなければ、利益を残していても株主の資産が増えるとは限りません。「配当株は自分で複利を回す、無配株は会社が回してくれる」と、きれいに二分することはできません。
比較するときは、配当利回りだけでなく、値上がり・値下がりも含むトータルリターンで見る必要があります。配当を多く受け取っても株価が大きく下がれば、資産全体では減っていることがあります。無配株も、株価が下がれば損失を抱えます。[1]
また、配当を生活費などに使う選択にも意味があります。そのお金を再投資しない分、投資資産の積み上がり方は変わりますが、いま使える現金を得ることが目的なら、そこまで含めて考えたいところです。
受け取った配当を再投資する際は、税金や口座の条件も確認したいところです。NISAの投資枠については、末尾の補足にまとめました。[3]
決算資料では、利益の使い道と成果を確かめる
企業の再投資を確かめたいなら、企業が投資家向けに公開している決算資料(IR)や有価証券報告書で、次の三つをつなげて読みたいです。
- 何に使ったか:設備、新事業、買収など、資金の使い道と狙い。
- どんな結果が出たか:数年を通じた利益や事業から生まれる現金の変化。株数の変化も踏まえ、一株当たりでも確認する。
- 株価にどこまで織り込まれているか:成長への期待が高い価格でも、納得できるか。
利益剰余金が増えた、投資額が増えた、という数字だけでは、再投資の成功は判断できません。利益剰余金は会計上の利益の蓄積であり、その金額がそのまま現金で残っているわけでもありません。
逆に、利益を残さず配当に回すことが合理的な場合もあります。有望な投資先が乏しければ、無理に事業を広げるより、株主に返す方がよいこともあるからです。無配を評価するためではなく、お金の使い方を確かめるために資料を読む、という順番です。
配当の有無だけで、複利の可能性を決めない
個別株でも、利益が次の利益につながり、株主の資産が複利的に成長する可能性はあります。そのために、配当を受け取ったり、途中で利益を確定したりすることが必須というわけではありません。
配当がない銘柄を見て迷ったときは、まず「会社に残った利益は何に使われ、何を生んでいるのか」を確認する。配当がある銘柄なら、受け取ったお金を使うのか、再投資するのかも考える。
仕事では、自動化で生まれた時間を次の企画に回してきました。投資でも、目に見える配当に加えて、企業に残った利益が次に何を生むのかを見ていきたいと思っています。
補足:NISAで売却した枠はいつ戻る?
課税口座では、配当や売却益にかかる税金が、次に投資できる金額に影響します。NISAには対象となる運用益が非課税になる利点がありますが、投資枠などの条件もあります。[3]
NISAで売却した商品の取得金額分の非課税保有限度額を再利用できるのは翌年以降で、年間投資枠とは別の制約です。売ればその年の買付余力が同額戻るわけではありません。複利のために売買を繰り返す必要もないので、再投資と売却・買い直しを混同しないことが大切です。[3]
投資方針の変遷や家計との両立については、関連記事「共働き家庭のリアルな投資戦略と実績」にまとめています。
※本記事は仕組みの解説と筆者の考えをまとめたもので、特定銘柄の購入を勧めるものではありません。株式には元本割れのリスクがあります。制度の説明は2026年10月22日確認時点です。
参考資料
[1] 米国SEC Investor.gov「Stocks」/株式の配当、値上がり、損失リスク
[2] Berkshire Hathaway「1980 Chairman’s Letter」/内部留保の使途・価値と株価への反映


