ChatGPTを作ったOpenAIのCEO、Sam Altman(サム・アルトマン)氏。
いま彼の名前から連想するのはAIですが、過去の投資を遡ると、かなり早い時期から「エネルギー」に大きく賭けています。核分裂のOklo、核融合のHelion Energy。どちらもChatGPTが公開された2022年よりかなり前から関わっていました。
ではAltman氏は、AIが巨大産業になる前から、その先で電力が不足することまで見えていたのでしょうか。
調べてみると、「AIによって電力不足が起きる」と2010年代から予測していた、とまでは確認できませんでした。一方で、安価で豊富なエネルギーは将来社会の根本的な条件になると考え、ChatGPTよりはるか前から自分のお金と時間を投入していたことは確認できます。
今回注目したいのは、Altman氏が投資した銘柄そのものではありません。
「何かが大きく普及したとき、次に何が不足するのか。」
その考え方に再現性があるのか、過去の投資から答え合わせします。
Sam Altmanの投資先は、全部同じ意味ではない
「Sam Altmanの投資先」と検索して出てくる会社を、すべて本人の投資実績として扱うことはできません。
Altman氏には、個人投資家、Y Combinator(YC)のPresident、OpenAIの共同創業者・CEO、企業の創業者・会長・取締役という複数の顔があります。YCが出資した会社と、本人が個人資金を投入した会社では意味が違います。
代表例では、Stripeは初期の個人投資、Redditも個人投資、Asanaは資金調達を主導。Okloは投資に加えて長期間会長を務め、Helionには巨額の個人資金を追加投入して会長として関与しています。一方、Humaneのように製品・事業が成功しなかった例もあります。
成功例だけを見ると「未来が見える人」に見える
有名な成功例がStripeです。Altman氏はLooptを経営していた時代、かなり早い段階でStripeへ個人投資しました。本人は後に、銀行口座に約1万7,000ドルしかなかった時期に、そのうち約1万5,000ドルをStripeへ投資したと振り返っています。[YC: Sam Altman interview]
Redditにも個人投資しており、本人自身が「YCではなく個人で投資した」と明記しています。[Sam Altman: Reddit]
ここだけを見ると「Sam Altmanの投資先を追えばいいのでは?」と思えてしまいます。しかし、それでは成功例だけを後から拾うことになります。
Humaneは「テーマが正しくても会社は外れる」反例
分かりやすい反例がHumaneです。Humaneはスマートフォンの次を狙うAIデバイス企業として注目され、Altman氏は2020年のSeries Aを共同で主導しました。[Humane Series A]
その後登場したAI Pinは市場で成功できず、2025年には主要技術や知的財産、人材などをHPが約1.16億ドルで取得し、AI Pinのサービスも終了しました。
「スマホの次のインターフェース」という未来が来ることと、Humaneが勝つことは別です。
Rain AIでも、AI処理を効率化する新しい半導体というテーマには早くから投資していましたが、OpenAIが検討した約5,100万ドルのチップ購入はnon-bindingのLOIで、実際の大規模購入には至りませんでした。[WIRED: Rain AI]
テーマを早く見つけても、技術、製品、商用化、企業、投資タイミングのどこかで外れる可能性があります。
ChatGPTより前から、なぜ原子力と核融合だったのか
今回の調査で最も重要だったのが、Altman氏が2015年に書いた「Energy」です。[Sam Altman: Energy]
そこでAltman氏は、安価で安全で豊富なエネルギーが実現すれば、経済、環境、生活水準、食料、水など多くの問題へ影響を与えられるという考えを示しています。そして通常のYC投資より深く、核分裂のOklo(当時UPower)と核融合のHelionへ関与しました。
つまり「AIが電気を大量消費するから原子力へ投資した」という順番ではありません。エネルギーを安く大量に使えること自体が、将来社会の重要な条件になると考えていた。その後、AIという巨大な需要が現れました。
2023年のOklo上場関連資料では将来に重要な二つのinputとして「abundant intelligence」と「abundant energy」が語られています。[SEC: Oklo/AltC transcript] 2024年の「The Intelligence Age」では、AIを広く利用するには大量のcomputeが必要で、そのためにはenergyとchipsが必要だという関係を明確にしています。[Sam Altman: The Intelligence Age]
Oklo:10年以上前の賭けを上場市場で答え合わせする
Okloは小型の次世代原子炉を開発する企業です。Altman氏は2013年ごろに創業者と出会い、その後YCへ招き、投資。2015年には会長にもなりました。ChatGPT公開のおよそ7年前です。
2023年にはAltman氏が関わるSPAC「AltC Acquisition Corp.」との統合を発表し、2024年にニューヨーク証券取引所へ上場しました。[Oklo: SPAC announcement]
ただし、2026年現在も本命の原子力発電事業はこれからです。最初のAurora Powerhouseは2028年が現在の目標で、過去に想定されていた2026〜2027年ごろから時間軸は後ろへずれています。
Switchとは最大12GW規模のMaster Power Agreementがありますが、12GWすべてが確定売上ではなく、個別案件について今後拘束力のある契約へ進める必要があります。[Oklo: Switch] Metaとはオハイオ州で最大1.2GW規模の計画を進めています。[Oklo: Meta]
2026年上期の売上は約121万ドルありますが、本格的な原子力発電売上ではありません。[Oklo 2026 10-Q]
ここから分かるのは、未来のテーマを当てることと、商用化する時期を当てることは別ということです。さらに「原子力需要が伸びる」と「現在のOKLO株が割安である」も別問題です。
Helion:さらに遠い未来へ数億ドルを投入
Helion Energyは核融合を開発しています。Altman氏は2014年ごろから投資し、2015年には会長となりました。2021年の大型資金調達では本人が約3.75億ドルを追加投資したと報じられています。[Sam Altman: Helion]
Helionは2021年当時、Polarisで2024年にnet electricityを実証する目標を示していました。現在の説明では、Polarisの目標は核融合エネルギーを電気へ直接変換することを実証する、という表現になっています。[Helion FAQ]
一方で技術開発が止まったわけではなく、2026年にはD-T fusionや約1.5億℃のプラズマなどの進展を発表しています。[Helion milestones] Microsoftとは2028年から最低50MWを供給する契約があり、商用発電所Orionの開発を進めています。
ただしHelionは現在も非上場で、一般投資家が証券市場から直接株を買うことはできません。
AIが大きくなると、次に何が不足するのか
ここからが一般投資家にも応用しやすい部分です。
AIモデル
↓
GPU・HBM・先端パッケージング
↓
データセンター
↓
電力変換・冷却設備
↓
変圧器・switchgear
↓
系統接続・送電網
↓
発電設備
↓
燃料
IEAは、世界のデータセンター電力需要が2025年の約485TWhから2030年には約950TWhへ増えると予測しています。[IEA: Energy and AI]
AIの効率改善によって同じ処理に必要な電力は減る可能性があります。それでも利用量そのものが急速に増えるため、IEAのベースケースではデータセンター全体の電力需要は大幅に増える想定です。
ただし「AI→電力不足→原子力が勝つ」と単純化するのも違います。電力供給には再生可能エネルギー、天然ガス、原子力など複数の電源が使われます。
さらに発電所を増やしても、変圧器がない、系統へ接続できない、送電線がない、冷却設備が足りない、原子炉燃料がない、となればそこが新しい制約になります。
以前、データセンターの物理インフラ側をまとめた643Aも調べました。[関連記事: 643A] AIはクラウドの話に見えて、実際にはかなり物理的な設備の上で動いています。
Okloを買うより「Okloが何に困るか」を考える
「Sam AltmanがOkloへ投資した。だからOkloを買う」ではなく、「Okloが大量に原子炉を作る世界になったら、次に何が足りなくなるのか?」と考えます。
たとえばOkloではHALEUと呼ばれる核燃料が重要になります。OkloはCentrus Energyと燃料供給に関する関係を構築しています。[Oklo/Centrus]
AI→データセンター→電力→原子力→原子炉燃料、と一段先へ進めます。
ただしCentrusはAltman氏の直接投資先ではありません。Altman氏の直接投資先と、同じボトルネック市場にいる企業は分けて考える必要があります。
一般投資家が再現できるのは「銘柄」ではなく「問い」
Altman氏の投資行動をそのまま真似するのは難しいです。本人は会社がほとんど知られていない非上場段階から投資でき、取締役や会長として会社内部にも関われます。そして商用化まで10年以上待てます。
一般投資家が再現しやすいのは、「ある技術が成功した世界を先に想像して、その世界で何が不足するのかを考える」方法です。
AIがもっと賢くなったら計算資源が必要になる。GPUが大量に増えたらデータセンターが必要になる。データセンターが増えたら電力が必要になる。発電所を増やしたら送電網や変圧器が必要になる。原子力を増やしたら燃料が必要になる。
未上場AI企業へ直接投資しにくい場合、上場ETFを通じて一部アクセスする方法もあります。以前調べた408AにはAnthropicやOpenAIの未上場株が一部含まれています。[関連記事: 408A]
ただ、テーマ投資は当たることも外れることもあります。僕自身、投資歴17年でも個別株では普通に失敗します。[関連記事: 投資歴17年] だから「有名人が投資した」という理由だけで銘柄を決めるのは避けたいところです。
結論:Altman氏が見抜いたのは「AI電力不足」だったのか
今回確認できた資料からは、「ChatGPT以前からAI時代の電力不足を予測して原子力へ投資していた」とまで言うのは難しい、というのが結論です。
2010年代前半にAltman氏が語っていたのは、もっと広く、安価で豊富なエネルギーが社会全体の可能性を広げるという話でした。そこへ後からAIという巨大な電力需要が現れました。
「AIの電力不足を予言した」というより、「エネルギーという根本的な制約へ先に賭けていたら、AIがそこへぶつかった」と考える方が自然です。
しかもAltman氏の投資が全部当たっているわけではありません。Humaneのような失敗もあり、OkloやHelionも商用化の時間軸には大きな不確実性があります。
したがって一般投資家が再現できるのは、「Sam Altmanが投資した会社を買う」ことではありません。
「あるものが豊富になったら、次に不足するものは何か?」
この問いを繰り返すことです。
AIモデルの次はGPUだった。GPUの次はデータセンターだった。そして現在は、電力、送電網、冷却、変圧器など物理インフラへ制約が移っています。
では、それらが大量に作られた次には何が不足するのか。
Sam Altman氏の投資履歴を追ってみて、一番参考になったのは、この一段先を見る考え方でした。
※本記事は特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。企業の事業進捗、規制状況等は2026年9月時点の情報をもとにしています。

