株を買うとき、「もっと下がってから買いたい」「高値掴みが怖い」と考えるのは自然です。ところがcis氏が繰り返し語ってきたのは、その逆に近い考え方でした。上がっている株を買い、上がっている間は利益を伸ばし、想定と違えば早く切る。しかも本人は、銘柄ごとの勝率を「3割くらい」と説明しています。
では、なぜ勝率3割でも巨額の資産を築けたのでしょうか。
過去の実売買を答え合わせすると、重要なのは「未来を高確率で当てること」より、外れた判断を引きずらず、少数の大きな利益を残す損益構造にあるように見えます。今回は成功例だけでなく、大きな損失やドテン失敗も含めて、普通の会社員投資家がどこまで再利用できるのかを考えます。
cis氏は「当て続けて」大金を作ったわけではなかった
PRESIDENT Onlineの本人インタビューで、cis氏は銘柄ごとの勝率について「3割くらい」と説明しています。残り7割はトントンか小幅な負け。それでも、ときに負け額の10倍、20倍を勝つため、トータルではプラスになるという考え方です。
ここが今回いちばん重要でした。
勝率だけを見ると、10回中7回うまくいかない。しかし、7回の損失を抑え、残り3回のうち大きく伸びるものを早売りしなければ、合計損益はプラスにできます。
つまり「よく当てる人」というより、「間違いを許容したまま、損益を非対称にする人」と見た方が、実際の売買を理解しやすいのです。
基本は「上がっているものを買い、違ったら切る」
同じインタビューでcis氏は、IPOのセカンダリーでも値上がりしている銘柄を買うのが基本だと説明しています。下落した株を「安くなった」と考えて拾うより、すでに市場から買われている株についていく順張りです。
高値で買えば天井を掴むこともあります。実際、cis氏自身も高値掴みをすることはあると話しています。
それでも順張りする理由は、高値掴みを完全に避けようとするのではなく、違ったと分かった後の損切りを早くするからです。一方、上がっている株は「利益が出たから」という理由だけでは売らず、利益を伸ばす。
人間がやりがちな「含み損は我慢し、含み益は早く確定する」と逆の動きをしていることになります。
実売買で答え合わせすると「一発で当てる」投資ではない
三菱UFJ:1〜2億円の損切りを繰り返しても、また入る
2015年の日刊SPA!のインタビューでは、cis氏が三菱UFJフィナンシャル・グループを約22億円買っていた事例が紹介されています。
注目した理由は、企業価値を細かく分析したからではなく、相場全体に逆行して株価が上昇していたからでした。
さらに重要なのは、その22億円を最初からずっと持ち続けていたわけではないことです。高値を抜けなかったり、抜けた後に再び下がったりするたび、1〜2億円規模の損切りを何度も行ったと本人が説明しています。
それでも再び条件が良くなれば買う。
これは「最初の買い判断を当てる」より、「外れたら切り、また条件が整えば入り直す」ことを重視している例です。
2014年の日経先物:1200枚の買いから売りへドテン
2014年のHARBOR BUSINESS Onlineのインタビューでは、cis氏は日経平均先物を合計1200枚まで買っていました。しかし大型株の値動きがチグハグになったことを見て買いポジションを解消し、約1万6200円で売りへドテン。その後、下落を確認して売りを追加しています。
結果だけを見ると「天井を当てた」ように見えます。しかし本人は、天井を確信していたわけではなく、上げ下げの予想が当たったのはたまたまだとも説明しています。
重要なのは予言ではなく、買い目線だった本人が、市場の動きが変わった時点で売り目線へ切り替えたことです。
ジェイコム:6億円利益は強烈だが、普通の順張りとは分けて考える
有名なジェイコム株大量誤発注事件では、cis氏は3300株を買い、約10分後に売却して約6億円の利益を得たと報じられています。
ただし、この事例を「cis式順張りの再現例」と扱うのは違うと思います。誤発注という極端に特殊な局面で、本人が以前から「もし誤発注が起きたらどうするか」を考えていたことが大きいからです。
再現性は低い。一方で、事前に仮説を持ち、条件が現れたら素早く行動し、高い期待値を感じた局面では大きく張るという特徴は見えます。
2026年のキオクシアでは、企業価値の仮説も持っていた
「cis氏はファンダメンタルズを一切見ない」と理解するのも単純すぎます。
キオクシアについて、2026年の本人投稿では工場設備や操業コスト、ブランド・販売網、競争環境などから企業価値の仮説をかなり具体的に組み立てていました。そのうえで、9万8000円で保有株をすべて売り、空売りへドテンした理由を説明しています。
ここで分けたいのは、「企業価値について考えること」と「実際にいつ売買するか」です。
企業価値の仮説を持っていても、市場では理論通りにすぐ動くとは限りません。本人投稿では、実際に大きな売買代金を伴って下がり始めたことも売買判断に含まれていました。
ファンダを完全に無視するというより、仮説には企業価値も使うことがある。ただし最終的な売買では、目の前の価格や需給を強く重視する。今回確認した範囲では、その整理が近そうです。
それでも大きく負ける。2026年には「資産70億減り」
ここまで読むと、「損切りが早いなら大負けしないのでは」と思うかもしれません。
しかし2026年8月、cis氏本人のアカウントには「売り全ギブ 資産70億減り」という投稿があります。
これは今回の記事で外したくない反例です。
順張り、損切り、ドテンを徹底していても、常に損失を小さくできるわけではない。大きなポジションを取れば、判断変更までの値動きだけで損失額も巨大になります。
だから普通の個人投資家が「cis氏も上がっている株を買っている。違ったら損切りすればいい」と順張り部分だけ真似するのは危険です。
損切りルールとポジションサイズはセットで考える必要があります。
固定5%損切りより「買った理由が崩れたか」を考える
では普通の投資家は、何%下がったら売ればいいのでしょうか。
cis氏の売買を見ると、単純な「マイナス5%で必ず損切り」という方法とは違います。値動き、周囲の銘柄との強弱、需給などから、自分が買った前提がまだ残っているかを判断しています。
ただし、この方法には弱点があります。裁量が大きいため、経験が少ない人ほど「まだ大丈夫」と含み損を正当化しやすいことです。
そこで私が会社員として取り入れるなら、cis氏のルールをそのままコピーするのではなく、買う前に「なぜ買うのか」「何が起きたら前提が崩れたと判断するか」を決め、さらに自分が耐えられる最大損失を別に置きます。
これはcis氏本人のルールではなく、今回調べた内容を自分の運用へ落とし込むなら、という私なりの整理です。
テスタ氏・桐谷氏と比べると、cis氏の特徴が分かりやすい
これまで有名投資家の売買を調べてきましたが、3人は同じ「株で成功した人」でも、記事から学べる役割がかなり違います。
テスタ氏の記事では、「何が変わったのか」を探すことが中心でした。決算や材料、需給などの変化を見つけ、市場の評価が変わるポイントを考える。
桐谷広人氏の記事では、優待や配当を受けながら長く持ち続けた結果を答え合わせしました。
対してcis氏の記事で一番残ったのは、「自分が間違ったとき、どう修正するか」です。
未来を完璧に予測するより、現在の市場が自分の予想と違うなら判断を変える。この違いは、同じ銘柄を触っていても売買を大きく変えます。
普通の会社員が真似しやすいのは、売買速度ではなく判断の仕組み
板や歩み値を見続け、場中に巨大な先物ポジションをドテンする。これは仕事をしながら投資する人にはほぼ再現できません。
一方で、次の考え方は取り入れやすいと思います。
・含み損を「いつか戻る」で正当化しない
・一度損切りしても、条件が整えば買い直してよい
・利益が出ているという理由だけで売らない
・勝率ではなく、一定期間の総損益で考える
・自分の予想より、実際に起きている値動きを優先する
そしてもう一つ重要なのが、ポジションを大きくしすぎないことです。
何度か損切りしても再挑戦できる資金と心理的余裕がなければ、「切って入り直す」という戦略そのものが成立しません。
ETF中心の運用とは、そもそも必要な判断回数が違う
ここまで調べると、cis氏の方法は「個別株で勝つ方法」だけでなく、自分がどれだけ売買判断に時間を使えるかを考える材料にもなりました。
私は仕事や家庭の時間もあり、運用全体ではETFを使う比率も高めています。ETFの長期保有は、個別株の短期売買に比べて判断回数を減らせるのが大きな利点です。
一方、個別株を積極的に売買するなら、銘柄選びだけでは足りません。間違ったときの撤退、再エントリー、ポジションサイズまで事前に考える必要があります。
どちらが優れているという話ではなく、自分が継続できる運用方法かどうかが重要です。
まとめ:真似したいのは「上がっている株を買う」だけではない
今回、cis氏の過去売買を調べて分かったのは、投資法を「上がっている株を買う」とだけ理解するとかなり危険だということでした。
順張りだけではありません。
外れたら切る。
切った後でもまた入る。
当たったら利益を伸ばす。
強い期待値を感じる局面では大きく張る。
それでも大きく間違えることはある。
この一連の仕組みまで含めて、初めてcis氏の投資法として理解しやすくなります。
普通の会社員が真似しやすいのは、高速売買でも巨大なポジションでもありません。
「自分が間違っている可能性」を、最初から売買ルールの中に入れておくこと。
株を買う前に、「上がると思う理由」だけでなく、「何が起きたら自分が間違っていたと認めるか」まで決めておく。今回いちばん自分の運用へ持ち帰りたいのは、そこでした。
※本記事は投資手法を検証するもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
主な参考資料
PRESIDENT Online「230億円稼いだ男の『100万円投資』入門 『勝率3割』でも資産は増やせる」
日刊SPA!「資産180億円の最強トレーダー『上がるのに買わないのはもったいない』」
HARBOR BUSINESS Online「資産160億円の最強トレーダーが日本株を語る」


