はじめに
LPWA(Low Power Wide Area)技術は、IoTの普及に伴い、低消費電力で広範囲の通信を可能にする手段として注目されています。本記事では、国内におけるLPWAの導入事例を、「農業」「防災・環境監視」「福祉・見守り」の3つのカテゴリに分類し、IIJ・NTT・自治体の取り組みを中心に紹介します。また、それぞれの事例で使用された通信方式や導入効果、課題、採用の背景も明示し、用途ごとの判断材料を提供します。
農業分野の導入事例
IIJ|愛媛県八幡浜市:スマート農業の推進
出典:愛媛県、LoRaWANを活用したスマート農業で収量向上を目指す
- 自治体規模:人口約30,000人、柑橘栽培が盛んな地域
- 通信方式:LoRaWAN
- 内容:土壌水分センサー120個を設置し、灌水の最適化により、みかんの品質向上と労働負担軽減を目指す。
- 効果:収量向上と作業効率化。
- 課題:設置場所の確保とデータの正確性維持。
- 選定理由:山間地での広域通信にLoRaWANが適していたため。
- 導入スキーム:IIJ主導の実証実験、地元農家協力
- 参考リンク: 愛媛県、LoRaWANを活用したスマート農業で収量向上を目指す
IIJ|北海道新十津川町:水田の水管理
- 自治体規模:人口約6,000人、農業が主産業
- 通信方式:LoRaWAN
- 内容:水位センサーと自動給水装置で効率化を図る。
- 効果:省力化と水資源活用の最適化。
- 課題:通信インフラと保守体制。
- 選定理由:長距離通信と電力効率のバランスが取れている。
- 導入スキーム:農協と協力した民間主導の実証
- 参考リンク: IIJ、スマート農業を推進する実証プロジェクトにLoRaWAN製品群を提供
IIJ|北海道津別町:自動操縦トラクターの高精度測位
- 通信方式:LoRaWAN(Ntrip)
- 内容:Ntrip方式のRTK-GNSS補正データをLPWAで伝送し、自動操縦トラクターの精度を改善。
- 選定理由:農機の自動運転に必要なリアルタイムな測位伝送を実現。
- 課題:基地局配置や更新頻度とのバランス調整が必要
- 参考リンク: LoRaWANやWi-Fi HaLowでスマート農業 IIJが取り組み事例を紹介
NTT|横浜市:スマート農業
- 通信方式:Wi-Fi HaLow
- 内容:センサーと監視カメラで作物管理と鳥獣害対策を実施。
- 効果:監視効率向上と収穫量の安定化。
- 課題:インフラ整備と導入コスト。
- 選定理由:既存Wi-Fiと親和性が高く、高速・省電力通信が可能。
- 導入スキーム:NTTと大学・農家の連携実験
- 参考リンク: 新Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」の農業での実証を開始
防災・環境監視分野の導入事例
NTT|神奈川県芦ノ湖:湖上監視・管理
- 通信方式:Wi-Fi HaLow
- 内容:監視カメラと水温センサーで不法操業対策と水質管理。
- 効果:湖の安全管理強化。
- 課題:電源と通信機器の設置。
- 選定理由:広範囲監視に対応する安定した帯域確保。
- 導入スキーム:県とNTT東日本による共同実証
- 参考リンク: 芦ノ湖で無線通信を活用したデジタル監視・管理の実証を開始
NTT|岐阜県揖斐川町:林業の安全管理
- 通信方式:Wi-Fi HaLow
- 内容:山間部での作業安全性向上のため通信インフラ整備。
- 選定理由:山間部でも電波が届きやすく、省電力で動作する。
- 参考リンク: 岐阜県揖斐川町にて林業の就業環境改善に向けた実証実験を実施
静岡県藤枝市:水位・雨量観測
- 通信方式:LPWA(未特定)
- 内容:河川やため池のセンサー設置、リアルタイム公開。
- 課題:センサーの位置やメンテナンス計画。
- 参考リンク: 地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集 – 内閣府
愛媛県久万高原町:町内全域へのLPWA通信網整備
- 通信方式:LPWA(複数)
- 内容:森林・河川・獣害対策など多用途で活用。
- 導入スキーム:町が通信インフラ整備に予算投入、補助金活用
- 参考リンク: 森林を含む町内全域にLPWA通信網を整備(愛媛県 久万高原町役場)
福祉・見守り分野の導入事例
埼玉県:高齢者見守り+水位管理
- 通信方式:LPWA
- 内容:ドア開閉センサー、水位センサーによるリアルタイム通知。
- 効果:高齢者の安全確保・災害対応。
- 課題:センサー配置や通信の信頼性維持。
- 選定理由:屋内外での長距離通信に適し、コスト効率が良いため。
- 導入スキーム:県主導の防災IoT実証
- 参考リンク: IoT・LPWAに関する事例紹介 – 埼玉県
北海道斜里町:観光客の安全確保
- 通信方式:LPWA
- 内容:登山者や観光船の位置情報をリアルタイムで取得。
- 選定理由:携帯圏外のエリアにおけるトラッキングに有効。
- 参考リンク: 【北海道斜里町】総務省「地域社会 DX推進パッケージ事業」の採択
通信方式選定の比較表(参考)
通信方式 | 通信距離 | 消費電力 | 通信速度 | 特徴 | 適した用途 | 導入事例数の傾向(日本) | 提供事業者例 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
LoRaWAN | 数km〜10km | 非常に低い | 0.3~50kbps | 双方向通信・免許不要・多数接続可 | 農業、山間部監視 | 多(特に農業系) | IIJ, ソラコム |
Wi-Fi HaLow | ~1km | 低い | 最大15Mbps | IEEE 802.11ah、高速・低電力・長距離 | スマート農業、防犯監視 | 中(先進実証段階) | NTT東日本、NEC |
NB-IoT | ~10km | 低い | ~100kbps | LTE利用・信頼性高・ライセンス必要 | 都市インフラ、メーター管理 | 中(都市部中心) | docomo、KDDI |
Sigfox | 数km | 非常に低い | ~100bps | 一方向通信・非常に低速・安価 | 簡易遠隔監視(トラッキング等) | 減少傾向(国内撤退あり) | (日本では縮小傾向) |
まとめ
国内におけるLPWAの導入は、農業、防災、福祉など多岐にわたっています。IIJやNTT、自治体による実装事例は、地域課題解決の糸口となっており、今後の全国的な展開や民間活用のヒントとして参考にされるべきです。さらに、用途別に求められる要件(広範囲通信、低消費電力、インフラ整備状況など)を整理した通信方式選定の比較表や、自治体規模・地域特性に応じた導入評価も今後重要となるでしょう。
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