きっかけ:なぜそんなに撮りたかったのか
結婚式のテーマは「妻の思うままに」だった。式場の打ち合わせを重ねるうちに、私たちの中で自然と浮かび上がったのが「ふたりの軌跡を残したい」という気持ちだった。単なる写真ではなく、歩いてきた時間を形にしておきたかった。だから、前撮りも「撮られる」より「撮りに行く」というスタンスで決めた。
忙しい日々の合間に、カメラを担いで飛び出す。そんな非日常が、いつしかふたりの日常になっていった。気づけば撮影スケジュールは国内から海外含めて4カ所。友人に「もうプロカメラマンなの?」と冗談を言われても否定できないほどの、撮影狂想曲の幕が上がった。
国内チャレンジ:セルフ前撮りと東京撮影
最初の挑戦は、代々木公園でのセルフ前撮り。三脚を立ててリモコンを握り、通りすがりの人の視線を気にしながらの撮影だった。風に煽られるウェディングドレス風のワンピース、少し照れながらのポーズ。撮り直しのたびに笑いがこぼれ、次第に緊張がほぐれていく。
撮影後、ベンチに腰を下ろしてカメラのモニターを覗き込む。画面の中には、ふたりだけの映画のワンシーンのような瞬間が映っていた。プロではないけれど、セルフ前撮りには“時間に縛られない自由”がある。その自由さこそ、いちばん私たちらしい。
次に挑戦したのは、東京駅周辺の撮影。結婚式が近づいていたこともあり、妻がオープニングムービーのイメージを事前に練っていて、そのテーマに沿って撮影を進めた。写真ではなくムービー素材を撮影してもらい、最後はふたりで結合して完成させる予定だ。
本当は皇居で撮影したかったが、撮影許可が必要とのことで断念。それでも東京駅の赤レンガと夕暮れの光が生み出す雰囲気は格別だった。この頃の私はというと、体重が人生ピーク。撮影結果を見た瞬間に現実を突きつけられ、そこから“超絶ダイエット”が始まった。結婚式当日までに約10キロ落としたのだから、前撮りは文字通り「人生を変えた撮影」になった。
海外編:パリでの前撮り
新婚旅行先に選んだのは、憧れの街・パリ。ここでの前撮りは、旅のハイライトだった。
撮影日は3月12日。パッケージは「B – サンライズ」。朝日が昇る時間帯、エッフェル塔の影がセーヌ川に映り込む。2時間の撮影で、600枚以上の写真を納品してもらえるプランだ。最終的に20枚は丁寧にレタッチしてもらえるという。
当時は結婚式の予定がまだ先で、構図や撮影スポットはすべて現地カメラマンにおまかせした。彼はパリの街を知り尽くしており、観光客のいない朝の絶景スポットを次々に案内してくれた。まだ薄暗い夜明け前にホテルを出発し、エッフェル塔、ルーヴル、セーヌ川沿いを巡る。息が白く浮かぶほど寒い中でも、不思議と心は温かかった。
「パリの朝は一度しか来ません。今日の光は今日だけです。」
カメラマンのその言葉に背中を押されながら、シャッターが切られていく。カメラのモニターには、旅の記録と愛の記録が重なっていた。撮影後、カフェで温かいカフェラテを飲みながら写真をチェック。逆光の中、彼女のドレスが金色に光っていた。まるで、朝日の中で物語が終わり、また始まるような一枚だった。
韓国スタジオ体験:シルバームーンでの特別な一日
最終章は、韓国・シルバームーンスタジオでの撮影。10月18日、午後2時からの予約。ウェディングアルバム20ページ付きの夜間撮影プラン。
当日はあいにくの大雨。スタジオ撮影が中心だったため大きな支障はなかったが、屋外撮影を中止するか最後まで悩んだ。幸い撮影終盤には奇跡的に雨が上がり、短時間だけ屋外でも撮影できた。しかし、雲が多く理想的な光ではなく、その写真は前撮り本編には使わなかった。
スタジオの中はまるで映画セット。ヨーロッパ調の階段、満開の花の壁、月明かりを模した照明。日本語が通じるスタッフもいて、コミュニケーションは問題なかった。カメラマンは拙い日本語ながら一生懸命コミュニケーションを取ってくれ、その姿勢に心が温まった。
妻はモデル経験があるため、ポージングも表情も完璧。一方で私は笑顔が硬く、何度も撮り直し。スタッフにいじられながらも、笑いの絶えない撮影になった。今でも妻にはカメラマンの拙い日本語を真似して「ほら笑顔!、ワラッテー」とネタにされることがあるが、それもまた良い思い出だ。
妻曰く「コスパ的にはちょっと高かったかも」とのことだが、仕上がった写真は映画のポスターのように完成度が高く、私としては大満足だった。
撮影を通じて見えた「ふたりの関係性」
どの撮影でも共通していたのは、“相手をどう撮るか”でその日の雰囲気が変わることだった。いい写真は、ポーズではなく呼吸で決まる。代々木公園での風待ちも、パリの寒空も、韓国のライトも、息を合わせた瞬間にすべてが噛み合う。
彼女の笑顔を引き出そうと必死になっていたはずなのに、いつの間にか自分が笑わされていた。写真を撮ることは、相手を理解することに近い。どんな角度で光を当てれば、この人の魅力がいちばん伝わるのか。それを考える時間そのものが、愛情のかたちだったのかもしれない。
終章:カメラが捉えた“今しかない瞬間”
前撮りとは、未来の自分たちへの手紙だと思う。数年後、この写真を見返す日が来たら、今日の空気も笑い声も蘇るだろう。パリの朝の冷たさ、韓国の照明の眩しさ、東京の夜風の匂い。どれも「今」しか撮れなかった景色だ。
レンズ越しに見た彼女の姿は、ただの被写体じゃなかった。ともに歩んできた時間の証そのものだった。だから、これから先も、どんな瞬間も撮り逃したくない。
次は――結婚式本番。そのとき、また新しい物語が始まる。
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