「120ml」
育児用ミルクの缶に、生後1ヶ月ごろの目安として書かれているこの数字。
初めての育児に挑む私たちにとって、この数字は、暗闇を照らす灯台のような「正解」に見えていました。
特に、少し小さめに生まれた我が子の育児では、この数字が唯一の安心材料だったと思います。
「この通りにやっていれば大丈夫」
そう信じたくなる気持ちは、ごく自然なものでした。
でも、現実はまったく思い通りにいきません。
70mlでぐっすり眠ることもあれば、
120mlを飲み切っても、まったく寝ないこともある。
寝ないからと追加で飲ませて、結果的に吐き戻してしまう夜もありました。
この数字は、僕たちを安心させるためのものだった。
でも実際には、不安を増幅させていた。
なぜ「目安」という善意の指標が、親を追い詰める武器になってしまうのか。
当時の育児ログを振り返りながら、その構造を整理してみます。
なぜ“目安”は、ここまで強い力を持つのか
育児における「数字」には、抗いがたい正解感があります。
数字は「正解」に見える
ミルク缶に明記され、医師や助産師の指導でも使われる。
この「数値化されている」という事実だけで、
それは客観的で、安全で、守るべき基準のように感じられます。
特に初めての育児では、
「自分の感覚」よりも「書いてある数字」を信じたくなるものです。
小さく生まれた子ほど、外れられない
体重が小さめからスタートした場合、
親の心理は知らず知らずのうちに
「追いつかせなければ」というモードに入ります。
たとえ体重が順調に増えていても、
目の前の1回の授乳量が「目安未達」だと、
どこか失敗したような気持ちになってしまう。
ここで一度、整理しておきます。
ミルク量=成長ではない
ミルクの量は「過程」であり、成長は「結果(体重・発育)」で見るもの。
ただし、渦中にいるとこの視点は簡単に逆転します。
同じ数字でも、立場が違えば意味が変わる
この「120ml」という数字に対する解釈は、家庭内でもバラバラでした。
- 妻(慎重派)
数字は守るべきライン。
寝ないのは足りていないからではないか、と不安が強くなる。 - 義母(経験派)
「昔はそんなに測っていなかった」
「泣いてなければ大丈夫」という経験則。 - 私(現場派)
赤ちゃんの様子を優先すればいいと思う。
ただし、論理的な確信がなく、不安に駆られる妻をうまく止められない。
誰かが間違っているわけではありません。
ただ、それぞれが拠り所にしている「正しさ」が違っていただけでした。
夜になると、数字は“安心”ではなく“武器”になる
このズレが最も強く表れるのが、夜中のワンオペ育児です。
寝不足。
「明日もある」という焦り。
とにかく今は寝てほしい、という切実な願い。
判断は、どうしても短絡的になります。
- 赤ちゃんが寝ない
- 「目安の120mlに達していないからだ」と考える
- 追加で飲ませる
- キャパオーバーで吐き戻す
- さらに不安になり、自己嫌悪に陥る
本来は安心材料だったはずの数字が、
夜になると「自分の育児が足りていない証拠」のように感じられていました。
実際の育児ログが示していた“数字の正体”
当時の育児ログを整理して、冷静に見返してみました。
ある1日のミルクと睡眠(要約)
| 時間帯 | ミルク量 | 様子 |
|---|---|---|
| 深夜〜朝 | 120ml / 100ml / 100ml | 比較的安定して就寝 |
| 昼前〜昼過ぎ | 70ml+追いミルク(計約190ml) | 細切れに起きる |
| 夕方〜夜 | 80ml / 120ml+追い | 量に関係なくまちまち |
ログから見えた事実
- 120ml飲んでも寝ない時はある
- 70〜100mlで満足して寝る時もある
- 昼前後は、量に関係なく細切れになりやすい
結論はシンプルでした。
120mlは「眠る条件」ではなかった
問題だったのは量そのものではなく、
一回ごとの数字を瞬間的に評価し、一喜一憂していたことでした。
1ヶ月検診が、判断基準をリセットした
生後1ヶ月の前倒し検診で、医師から「全く問題ありません」と言われた瞬間。
妻の表情が、はっきりと変わったのを覚えています。
この一言で、私たちの判断基準は書き換えられました。
- ミルク量(過程)ではなく、体重(結果)を見る
- 「今の1回」ではなく、1週間・1ヶ月という期間で考える
数字そのものではなく、どの数字を見るかが重要だったのです。
データの使い方を変えたら、育児は少し楽になった
この経験を経て、我が家では数字との付き合い方を変えました。
データは「縛り」ではなく「保険」
「○ml飲ませなければならない」というルールではなく、
「これだけ飲めているから大丈夫」という安心材料として使う。
我が家の暫定ルール
- 70ml以上飲んで自然に寝たら、無理に起こさない
- 寝ないからといって無限に足さない(吐き戻しは足しすぎサイン)
- 迷ったら、ミルク缶ではなく体重の推移を見る
目的はただ一つ。
誰も追い詰められない育児を続けることです。
まとめ|育児で本当に怖いのは「間違うこと」ではなかった
育児で本当に怖いのは、
数字を守れないことではありません。
「数字を守らなければ」という不安が、
目の前の赤ちゃんのサインを見えなくし、
親の心を少しずつ削っていくことです。
120mlは、あくまで目安。
でも、目の前の赤ちゃんは「目安通り」に動く存在ではありません。
もし数字に振り回されそうになったら、
一度ログを俯瞰して「点」ではなく「線」で見てみるようにと考えるようになりました。



コメント